100年以上も続く競馬史の中には、数多くの事件があります。
今回は、その中から人間の悪質な行為によって競走能力を喪失した「ダテハクタカ事件」を取り上げます。
1968年、いまから50年以上も前にターフデビューを果たしたダテハクタカの主な勝ち鞍は阪神大賞典です。
勝利こそなかったものの、天皇賞にも出走していて、生粋のステイヤーに思われますが、ダテハクタカは芝のみならず、ダートでも好走していて、短距離レースでも結果を残し、さらには障害レースにおいても好成績を残したオールラウンダーです。
1972年、中山競馬場で開催された中山大障害のパドックにおいて、その事件は起きました。
断然1番人気に支持されたダテハクタカが突如パドックで暴れだし、蹄鉄が外れる出来事がありました。
蹄鉄の打ちかえの際、関係者はダテハクタカの右目に何かが付着しているのを発見します。
調べたところ、それは濃硫酸でした。
ダテハクタカの右目は白濁し、視力にも支障が見られたことで競走中止を余儀なくされました。
関係者によると、パドックに向かう通路で「サイダー瓶ほどの水がダテハクタカの頭上に落ちた」との証言があります。その水が濃硫酸でした。
人気を背負ったダテハクタカが敗れることに期待した”誰か”が意図的にダテハクタカを故障させようとしたのです。
数多くの競馬ファンを裏切り、競馬関係者の努力を踏みにじったこの事件は極めて悪質です。
この事件を聞き、中山競馬場が所在する船橋市の警官が捜査に入りましたが、当日は天候が悪くて思ったほどの証言が得られません。
また、濃硫酸が入った容器も検出されず、証拠が乏しいことから、結局犯人を見つけることはできませんでした。
競馬史上の中でも極めて悪質な行為の被害者となったダテハクタカは、幸いにも右目は治癒しました。
しかしながら、精神的な傷はいえませんでした。
この事件のあと、2戦障害レースに挑みましたが、勝ち星をつかむことができず、引退が決まったのです。
50年以上も前の話なので、現在の競馬ファンはこのような事件があったことを知らないという方も多いでしょう。
しかしながら、競馬の主役ともいえるサラブレッド、そして全く無害の馬を意図的に傷つけたこの事件は競馬史の中でもトップクラスに悪質です。
ダテハクタカのような被害馬が今後でないためにも、この事件は後世に語り継ぐべきでしょう。