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ジェンティルドンナが史上4頭目の牝馬三冠を手にした【2012秋華賞】を紹介します。
「勝って当然」ならまだしも、「勝たなくてはいけない」と要求されるプレッシャ-は、相当なものだろう。単勝1.3倍、牝馬三冠がかかった2012年の秋華賞に、ジェンティルドンナは14番ゼッケンを着けて臨んだ。
GⅠで背負う初めての1番人気。桜花賞では前哨戦の負けが嫌われ2番人気、オークスは距離不安が囁かれ3番人気と主役を譲っていたが、ようやくファンに認められると同時に三冠を見たいファンの期待に応えなくてはいけなくなった。
当然、敵はいないと思われた。オークスを5馬身差で圧勝。さらには桜花賞、オークス、ローズSともに2着はヴィルシーナであり、ライバルは彼女だけで他馬との勝負付けは済んでいるとみなされた。
しかし、現実は甘くない。
パドックでは落ち着いていたものの、返し馬で観客の声に驚いたのか体勢を崩し鞍上の岩田騎手を振り落としてしまう。楽勝を予想していたファンの心に、かすかな雲が覆い始めた。
スタートが切られると、ライバル、ヴィルシーナが一気にハナを奪い逃げの手に出た。抜群の末脚を持つジェンティルドンナに勝つにはこれしかないという、三冠を阻止するための本気の大勝負だ。
馬群はスローのまま進み、ジェンティルドンナは中団で抑え目にレースを進めていく。すると、後方にいたチェリーメドゥーサがスローペースを読んだのか向こう上面で一気にヴィルシーナを抜き去り先頭に踊り出た。そのまま止まることなく7馬身、8馬身と差を拡げにかかる。
3コーナーからペースが上がり、岩田騎手が追い始めるが手応えが悪くなかなか差が詰まらない。最後の直線に入ってもポジションは変わらず、チェリーメドゥーサは2番手のヴィルシーナから6,7馬身のリードを保ったまま逃げ続けていた。
「これはダメだ」
多くのファンがそう思った。負けるならこれしかない。ファンが冗談交じりに語っていた展開が、今、目の前で起きている。
しかし、直線に入りエンジンがかかったジェンティルドンナは一気に先行していた馬を抜き去る。
先に馬群から抜け出していたヴィルシーナを射程にとらえるが、残り200メートルでチェリーメドゥーサとはまだ5,6馬身離れている。
このまま逃げ切りか? ヴィルシーナの悲願か? 三冠達成か?
様々な思惑が交錯する12秒の間に、ジェンティルドンナはヴィルシーナを交わす……が、先頭は譲らないとヴィルシーナが差し返す。
併せ馬のまま追い続け残り50メートルでチェリーメドゥーサを交わした。しかし、残り数センチになるまでどちらも譲らないまま、ゴールを駆け抜けた。
僅か7センチ。ジェンティルドンナが史上4頭目の牝馬三冠を手にした。絶対に負けられない三冠がかかったレース。その名に恥じることの無い、手に汗握る名レースである。