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伝説的なレースを紹介するこのコンテンツ。
エイシンフラッシュとデムーロ騎手が競演した【2012年天皇賞秋】を紹介します。
ローズキングダム、ヴィクトワールピサ、ダノンシャンティ等が活躍し最強世代と謳われた2010年のダービー馬、エイシンフラッシュ。同世代のライバルが古馬戦線でも結果を残す中で、エイシンフラッシュは2年間も勝利の栄光から見放され続けていた。
4歳の頃こそGⅠレースの馬券内に入ることは出来ていたが、5歳になると一変。10月頭まで3戦していずれも掲示板外に飛ぶなどダービー馬としての輝きに陰りが出てきていた。
そんな悩めるダービー馬が復活を期すレースとして選ばれたのが2012年秋の天皇賞だ。
鞍上には短期免許で来日していたミルコ・デムーロを迎え、7年ぶりの天覧競馬となるこのレースに本気で臨むことになる。
新興勢力の3歳勢、フェノーメノとカレンブラックヒル、そして春には香港でGⅠ初勝利を果たしたルーラーシップなど強敵が揃うなかでエイシンフラッシュは5番人気に支持され、レースを迎えた。
レースは予想通りシルポートが大逃げし、固まった馬群がそれを追う展開。エイシンフラッシュは後方の内でじっと構え、勝機を伺う。シルポートが10馬身以上差をつけて直線に入っても、周りの馬が馬群から抜け出す為に早く仕掛けても、ずっと内で我慢し続けた。
見守るファンも、周りの騎手も焦る展開。たった一人だけ、ミルコ・デムーロ騎手だけは冷静だった。
直線に入り、馬群を避けた馬が外に広がった瞬間、右ムチを入れて一気に内ラチ沿いに突っ込ませた。
その名の通りまるで閃光のような末脚で一気に馬群を飲み込み先頭に踊り出る。ミルコの手綱に懸命に応えフェノーメノらの追撃を振り切ったエイシンフラッシュはダービー以来2年ぶりの勝利を手にした。
ダービー馬復活。それも天皇皇后両陛下の前で。それだけでも感動の一幕といえるだろう。
しかし、感動の渦は拡がり続ける。
優勝馬のみが許されるウイニングラン。スタンド前までやってきたエイシンフラッシュとデムーロ騎手はファンの声援に両手で作ったハートマークで応えると、馬を讃えるかのように下馬をしてエイシンフラッシュをその場で一回転させる。
すると、脱帽して両陛下に対し片膝をつき、深く頭を垂れ最大限の敬意を表したのだ。両陛下は手を振って応え、ファンは割れんばかりの拍手と歓声でデムーロ騎手を讃えた。
外国人騎手の高貴な振る舞いに、国境を越えたスポーツの素晴らしさを、競馬ファンが改めて感じた瞬間だった。
しかし、本来は故障等で無い限り検量前の下馬は禁止されている。デムーロ騎手の行動は審議の対象になったが、JRAは不問とした。JRAも、デムーロ騎手に敬意を表した、ということだろうか。
エイシンフラッシュとデムーロ騎手が競演した感動の秋の天皇賞。忘れることの出来ない、印象深い名レースだ。