毎週月曜日はレジェンドレース回顧録!
伝説的なレースを紹介するこのコンテンツ。
今回はエイシンヒカリが10馬身差Vとなった伝説のレース【2016年イスパーン賞】を紹介します。
2021年5月現在、海外GⅠを勝利した日本調教馬、39頭。
うち、欧州GⅠを勝利した馬、6頭。
うち、内国産馬、2頭。
うち、父内国産馬、1頭。
それが、エイシンヒカリだ。
ヨーロッパの競馬は、別競技だとよく言われる。
重くて深い芝、高低差の大きいコース。日本とは違うスタミナ、パワーが要求される。日本で華々しい成績を上げる馬でも欧州で惨敗を喫してしまうのは、コース適性の差によるところが大きい。
進化論の極地とも言えるサラブレッド界では、トレンドは短いスパンで入れ替わりあっという間にガラパゴス化が進行していく。それ故、日本に適応した馬から生まれ、日本に適応する為に育てられた馬が欧州のGⅠを勝つのは非常に難しい。
それでもやってのけた。それも、歴史的な大差で。
エイシンヒカリが名を挙げたのは、大斜行しながら勝ったアイルランドTだろう。しかし、4歳からは重賞2勝を含む3連勝でGⅠに初挑戦(天皇賞秋)するも大敗。前年も重賞初挑戦時に大敗していることもあり、典型的な「前哨戦ホース」と見られていた。
ところが、強敵揃いの香港カップでGⅠを初制覇。本格化したと声が挙がる一方で、フロック視する声も少なくなかった。9番人気と注目されていなかったことが、評価を上げにくかった要因だろう。
そんななか、エイシンヒカリの次の目標となったのがフランスのイスパーン賞であった。
ガネー賞を勝ったダリヤン、仏ダービー馬ニューベイ、JCにも出走したイラプトなど強敵が揃い、悪天候のなか本番を迎えた。
エイシンヒカリは好スタートを決めるも、外からヴァダモスが主張してくる。鞍上の武豊騎手は腹をくくったのか、頭を上げて抵抗するエイシンヒカリをなだめて2番手でレースを進めることにした。
今までずっと逃げて勝ってきた馬。番手で進めた天皇賞は大敗した……。ファンの頭に、見たくもない光景が思い浮かぶ。
しかし、そのまま直線を迎えたエイシンヒカリは、ファンが思い描くことすらしなかった光景を叩き付けた。
軽く追っただけで先頭に立つと、みるみるうちに差を拡げていく。1頭だけ、何かに引っ張られているかのようにゴールに吸い込まれていく。気付けば、10馬身差の圧勝。圧倒的なパフォーマンスで伝統レースを勝利したと同時に、日本産馬として初めて欧州のG1を制覇した。
日本生まれの馬が、欧州で勝つ。歴史的大偉業をやってのけたエイシンヒカリ。語り継がれるであろうし、語り継いでいきたい。日本競馬界の歴史を変えた、名レースである。